三菱一号館美術館で開催中の「アール・デコとモード」展
現在、東京丸の内の三菱一号館美術館にて、
京都服飾文化研究財団(KCI)コレクションを中心に
が開催されている。

展覧会ポスター
photo©️Kyushima Nobuaki

アール・デコとモード展入り口付近
photo©️Kyushima Nobuaki
開催期間は2025年10月11日〜2026年1月25日。
アール・デコ、と銘打っているからには、今から100年前に開催された1925年パリ万博(アール・デコ博)関連の資料も展示されているに違いない。
早速行ってみた。
やはりアール・デコ博(1925年パリ万博)の資料も豊富である。
ポスターも何種類か展示されていた。
写真が許されていたのは1種類だったのでここでご紹介したい。

ポスター「現代産業装飾芸術
国際博覧会1925年」
ロベール・ボンフィス
photo©️Kyushima Nobuaki
「ファッションの帝王」ポール・ポワレ
また、このブログ内で、
<34>ピカソ『アヴィニョンの娘たち』は万博に出展されていた!?
でも登場した、当時「ファッションの帝王」と呼ばれていたポール・ポワレ(1879-1944)関連の資料も展示されていた。

コート
ポール・ポワレ
photo©️Kyushima Nobuaki

「ポール・ポワレのサマー・ドレス

「ポール・ポワレのイヴニング・ドレス
彼が、万博当時セーヌ川に浮かべた豪華な3艘の川船パビリオン
「オルガン(Orgue)」、「愛(Amour)」、「悦楽(Délices)」
関連の資料もあった。
なかなか興味深い。それぞれの内容は下記のとおりである。
「オルガン(Orgue)」 ファッションコレクション
特別に制作した光るオルガンが設置され、ラウル・デュフィが下絵を描き、リヨンの絹織物会社ビアンキーニ=フェリエが制作した壁掛けが14枚飾られた。
ポール・ポワレのオートクチュール・メゾン「メゾン・ポール・ポワレ」の最新のドレスなどが展示され、ファッションショーも開催された。
「愛(Amour)」 インテリアデザインと工芸品の展示
ベッドルーム、リビングルーム、ダイニングルームなどが設けられ、メゾン・マルティーヌ(アトリエ・マルティーヌのショップ)の家具やファブリックなど室内装飾品が展示された。
「悦楽(Délices)」 香水関連展示とレストラン
香水(ポワレが娘の名で設立したパフューム&コスメティック会社ロジーヌの展示スペースと高級レストランがあった。
このうち、「悦楽(Délices)」と「Amour(愛)」の写真が展示されている。

ポール・ポワレの川船「悦楽」

ポール・ポワレの川船「Amour(愛)」と思われる
「Amour(愛)」については、今回の展示では「川船」としかキャプションがないが、筆者が調べたところ、この写真に見られる階段状の甲板がこの船の大きな特徴と記録されているところから、「Amour(愛)」と判断した。
ポール・ポワレの破産
さて、この3隻の船の展示に巨額の費用をつぎこんだことが経営に大きな負担になり、ポール・ポワレは破産することになる。
さらにその後破産を繰り返し、1929年にはメゾンを閉鎖することになるのである。
万博出展が破産に繋がった例である。
ポワレ自身もこの展示について「たいへんな幻滅であった」、「壮大な誤算」、あるいは「巨大な失敗」だったと回想している。
彼はこの展示にかかる費用をすべて自分で捻出したにもかかわらず、想定したような富裕層顧客の動員には至らず、夜間には夜働く人々や物見客たちが押し寄せただけであった、という。
多大な投資をしたにもかかわらず回収にはほど遠かったのである。
ルネ・ラリックの「フランスの泉」と「泉の精ガラテ」
今回の展示で興味深かったものがもう一つある。
それは、ルネ・ラリックの「泉の精ガラテ」である。

彫像「泉の精ガラテ」
ルネ・ラリック
photo©️Kyushima Nobuaki
ルネ・ラリック(1860-1945)については
でもご紹介した。
ルネ・ラリックは「アール・ヌーヴォー」、「アール・デコ」両方の時代を生きた芸術家である。
1900年パリ万博では宝飾品などを出展していた。
そしてこの1925年アール・デコ博ではラリックのために一つのパビリオンが与えられた。
ラリックは、アンヴァリッド会場の中に「ラリック館」を出展し、その前の広場にはラリックの噴水「フランスの泉」(La Fontaine des Sources de France)も設置した。
この「フランスの泉」は、写真が残っているが、15層になっているブロックのようなところのそれぞれから斜め下に向かって同時に水が飛び出している。

1925年「アール・デコ博」
ルネ・ラリックの噴水「フランスの泉」
Expo 1925 Arts Décoratifs
Fountain by René Lalique

設計:マルク・デュクリュゾー、装飾:ルネ・ラリック 『プレート73 ラリックの噴水』
architect: Marc Ducluzaud, decorator: René Lalique “Pl.73 Lalique fountain”
構造はアール・デコ様式の八角形のオベリスクを模したもので、高さは15メートル。
夜間は内部照明が施され、水しぶきが蜘蛛の糸のように長く見えるように設計されていた。
この像「泉の精ガラテ」は、「フランスの泉」を構成した128体のオブジェのひとつと同型のガラスの像、ということである。
この128体の女性小立像には16種類の異なるモデルがあったが、「泉の精ガラテ」はその一つであった。
16種類のほとんどがニンフ(精霊)の名前を付けられていたが、この「ガラテ」もそうであった。
「ガラテ」は海神ネーレウスの50人の娘の一人であるネーレーイス(Nereid)として知られており、彼女は海の底に住み、しばかに海面に出てきて踊りや歌を楽しむ、若く美しい女性の姿をした海の精、ということである。
手にホタテのような貝を持っているのが特徴となっている。
そしてこれら128体については、博覧会終了後、噴水が解体された際に回収され、他のモデルと同様に「泉の源 (Source de la Fontaine)」というシリーズ名で、木製台座付きで美術品として販売されたという。
この展示物はその一つなのである。
何にしても、1925年アール・デコ博のラリックの噴水の一部が目の前にあるとは、なんとも感慨深い思いであった。