エッフェル塔を見るのに最適な場所
『エッフェル塔三十六景』(アンリ・リヴィエール、Henri Rivière, 1864-1951)という浮世絵風の作品もあるくらいで、パリでエッフェル塔を見るのにいいポイントは多い。

アンリ・リヴィエール『建設中のエッフェル塔、トロカデロ宮からの眺め』(『エッフェル塔三十六景』の一枚)
Henri Rivière ”Eiffel Tower under construction, view from the Trocadero” (one of “36 views of the Eiffel Tower”)
しかし、観光客が一番よく訪れるのはシャイヨー宮かもしれない。
このシャイヨー宮は小高い丘のようなところに立っており、その広場からはセーヌ川を挟んで真正面にエッフェル塔が見える。

シャイヨー宮から見たエッフェル塔
photo©️Kyushima Nobuaki
シャイヨー宮の目の前にあるのがトロカデロ庭園、そして真正面にセーヌ川にかかるのがイエナ橋である。

シャイヨー宮から見たエッフェル塔
photo©️Kyushima Nobuaki
筆者が今回訪れたのは朝早い時間だったので、逆光気味で写真をとるには今ひとつの時間帯だったが、それでも観光客が多く訪れていた。

シャイヨー宮の中央広場
photo©️Kyushima Nobuaki
1878年パリ万博で建てられた「トロカデロ宮」
今シャイヨー宮が立っている場所には1878年パリ万博のときに「トロカデロ宮」という建物が建てられた。

トロカデロ宮
1823年にフランス軍がスペインから奪ったカディス湾の要塞を模したこの建物には、4000とも4500ともいわれる数のガス灯が備えつけられ、4500人収容の巨大なコンサートホールが設置されていた。
ここには、カヴァイエ・コル製作の大オルガンが設置され、その後のオルガン音楽の在り方に大きな影響を与えたという。また、左右の塔には、1867年パリ万博で名を挙げたレオン・エドゥーの水圧式エレベーターが設置され、一度に60人の乗客を運んでいた。
この巨大建築を共同設計で作り上げたのは建築家ジュール・ブールデと、ガブリエル・ダヴィウー。
ジュール・ブールデは、その後1889年パリ万博のために建てる塔をめぐってエッフェルとしのぎを削ることになる人物である
1889年パリ万博時のトロカデロ宮
1889年パリ万博ではこのトロカデロ宮前の「水の庭」に色とりどりの睡蓮が展示された。
このラトゥール=マルリアックの展示が、モネが後に『睡蓮』の連作を手がけるきっかけとなった。
このあたりについては
<107>「モネ 睡蓮のとき」展 ー モネが睡蓮を「発見」した万博とは
で詳しくご紹介したのでご参照いただきたい。
1900年パリ万博時のトロカデロ宮
1900年パリ万博のときにはトロカデロ宮前の広場の一角に日本館がたてられた。
この時の日本出展の責任者である「事務官長」は林忠正(1853~1906)であった。

林忠正
国会図書館に保管されている「千九百年巴里萬國博覧会臨時博覧会事務局報告」にはこの時のことが詳細に記録されている。
これを見ると、当時の日本出展の拠点となった「臨時博覧会事務局巴里出張所」は現在のトロカデロ宮広場まで徒歩約8分(650m)のところに設置されていたのであった。

トロカデロ広場にあるフェルディナン・フォッシュ元帥の騎馬像
photo©️Kyushima Nobuaki
1937年パリ万博でシャイヨー宮に
そして1937年パリ万博時にトロカデロ宮は壊され、代わりにシャイヨー宮が建てられた。
シャイヨー宮は、1937年の万博では、万博のテーマである「近代生活における芸術と技術」を表現する展示空間の中心的な役割を担った。
当時の資料によると、シャイヨー宮は、観客がこれから見る「現代世界」の展示の前段として、「プリミティフ」と呼ばれる対象、つまり人類の起源や文化の多様性、人類の歴史や文化の根源的な側面を展示していたらしい。
現在のシャイヨー宮
現在、シャイヨー宮は、東翼(Est Wing)と西翼(West Wing)の2つの翼で構成されている。
中央のテラス(トロカデロ広場からエッフェル塔を望む場所)を挟んで、左右に分かれた建物がそれぞれの翼にあたる。

シャイヨー宮とエッフェル塔
photo©️Kyushima Nobuaki
東翼には、フランス文化財博物館(Cité de l’architecture et du patrimoine)とシャイヨー国立劇場(Théâtre national de Chaillot)がある。

シャイヨー宮東翼
photo©️Kyushima Nobuaki

シャイヨー宮の東翼入り口。
フランス文化財博物館とシャイヨー国立劇場がある。
photo©️Kyushima Nobuaki
また、西翼には、海洋博物館(Musée national de la Marine)と人類博物館(Musée de l’Homme)が入っている。

シャイヨー宮西翼
photo©️Kyushima Nobuaki
1937年パリ万博で建てられたこのシャイヨー宮は現在も立派に文化施設として機能しているのである。