<167>1937年パリ万博に出展されたモディリアーニ作品とは

1937 Paris
アメデオ・モディリアーニ『ポール・ギヨーム、ノヴォ・ピロタ (Paul Guillaume, Novo Pilota)』(1915) 1937年パリ万博「巨匠展」出展作品

オランジュリー美術館のモネ以外の作品群

<166>でご紹介したように、オランジュリー美術館には1950年代後半、美術商であったジャン・ヴァルテールポール・ギヨームのコレクションが寄贈された。

オランジュリー美術館外観
photo©️Kyushima Nobuaki

これには、セザンヌ、ルノワール、ピカソ、マティス、モディリアーニなど、印象派や後期印象派の重要な作品が含まれており、現在は地下の展示スペースに展示されている。

パブロ・ピカソ『タンバリンを持った女性 (Femme au tambourin)』

アンリ・マティス『マンドリンを持つ女性(Femme à la mandoline)』

アンリ・マティス『バイオリンを持つ女性(Femme au violon)』

アンリ・マティス『灰色のキュロットをはいたオダリスク(Odalisque à la culotte grise)』

ここには、上記の作家のほか、ユトリロ、マリー・ローランサンなどの名品も多数展示されている。

モーリス・ユトリロ 『モンスニ通り (Rue du Mont-Cenis)』

モーリス・ユトリロ 『ベルリオーズの家 (La Maison de Berlioz)』

マリー・ローランサン『鹿 (Les Biches)』

マリー・ローランサン『スペインのダンサー (Danseuses Espagnoles)』

マリー・ローランサン『犬を連れた女性 (Femmes au chien)』

マリー・ローランサン『マドモアゼル・シャネルの肖像』

その中の、マリー・ローランサン『マドモアゼル・シャネルの肖像』(1923)であるが、見覚えがある作品だった。

マリー・ローランサン『マドモアゼル・シャネルの肖像 (Portrait de Mademoiselle Chanel)』

じつはこの作品は2023年2月14日〜4月9日まで、東京渋谷のBunkamuraザ・ミュージアム(現在休館中)で開催された「マリー・ローランサンとモード展」で来日していたのである。

この話は

<19>「マリー・ローランサンとモード」展

で紹介した。

この絵はココ・シャネルが依頼したものだが、本人が気に入らず、受け取りを拒んだといういわくつきの作品である。

そのため、マリー・ローランサンが保持していたが、その後ポール・ギヨームが手に入れ、そしてオランジュリー美術館に寄贈した、というものだ。

モディリアーニ『ポール・ギヨームの肖像』

そしてそのポール・ギヨームを描いたのがモディリアーニ『ポール・ギヨーム、ノヴォ・ピロタ(Paul Guillaume, Novo Pilota)』である。

アメデオ・モディリアーニ『ポール・ギヨーム、ノヴォ・ピロタ (Paul Guillaume, Novo Pilota)』(1915)
1937年パリ万博「巨匠展」出展作品

この作品はオランジュリー美術館では『ポール・ギヨーム、ノヴォ・ピロタ』というタイトルになっているが、一般には『ポール・ギヨームの肖像』といわれることも多い。

ポール・ギヨーム(1891-1934)は20世紀初頭のパリで活躍したフランスの美術商であり、コレクターであった。

彼は、モディリアーニ以外にも、ピカソ、マティス、ブラック、デ・キリコ、コンスタンティン・ブランクーシ、アンリ・ルソー、アンドレ・ドランなど、当時の前衛的、新進気鋭の画家たちの作品を取り扱った。

オランジュリー美術館の『ポール・ギヨーム、ノヴォ・ピロタ』「ノヴォ・ピロタ(Novo Pilota)」とはモディリアーニの母国語のイタリア語であるが、「New Pilot」=「新しいパイロット」という意味で、ポール・ギヨームが、当時の新しい芸術界のパイロット(牽引役)であることを示唆している。

そして、この作品の左下の部分には、「NOVO PILOTA」と書かれているのが確認できるのである。

アメデオ・モディリアーニ『ポール・ギヨーム、ノヴォ・ピロタ (部分)
左下には、「NOVO PILOTA」と書かれている

1937年「巨匠展」に出展された『ポール・ギヨームの肖像』

今回調べてみたところ、この『ポール・ギヨームの肖像』1937年パリ万博の際、プティ・パレで開催された「独立美術の巨匠たち1895-1937展」(「巨匠展」)に出展されたものであることがわかった。

「巨匠展」のカタログを確認すると、P78のモディリアーニのページの一番上に

70. Portrait de Paul Guillaume (1915)
A Mme Paul Guillaume

と確認できる。

1937年パリ万博「巨匠展」カタログよりモディリアーニのページ
photo©️Kyushima Nobuaki

タイトルの下の所蔵者の名前から、「巨匠展」が開催された1937年パリ万博のときにはポール・ギヨームはすでに亡くなっていたため(1934年死去)、ギヨーム夫人が所持していたことがわかる。

ちなみに、この「巨匠展」ではマティスの『夢』、『赤いキュロットのオダリスク』ピカソの『アヴィニョンの娘たち』なども展示されていた。

アンリ・マティス『赤いキュロットのオダリスク』 ポンピドゥー・センター所蔵
Henri Matisse “Odalisque à la culotte rouge”

その話は
<26>現在開催中の「マティス展」とマティスの万博出展作品

<34>ピカソ『アヴィニョンの娘たち』は万博に出展されていた!?

でもご紹介した。

今回訪れたオランジュリー美術館でも『赤いキュロットをはいたオダリスク』という作品に出会った。

同じ名前なので混乱しやすいが、この作品は<26>で検証したとおり、万博出展作品とは別バージョンのものであった。

アンリ・マティス『赤いキュロットをはいたオダリスク(Odalisque à la culotte rouge)』     オランジュリー美術館所蔵

 

いずれにしても、久しぶりに訪れたパリのオランジュリー美術館

その「モネの間」の睡蓮にも圧倒されるが、新たにモディリアーニの万博出展作品の実物を確認できたのは筆者的には大きな収穫であった。

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